アフターレポート
2014年5月23日(金)、株式会社セミナーインフォ主催により、東京・千代田区のベルサール神田で「金融フォーラム2014」が開催された。今回で3回目を迎えるこのフォーラムは、金融機関を対象に、業界を取り巻く環境の変化や規制の動向、成熟市場を生き抜くためのイノベーション等に関する付加価値の高い情報を提供するためのイベントである。
今回は、「〜新たな規制への対応とマーケティング&IT革新〜」を統一テーマに、全25セッションが開かれた。参加エントリー総数は3千7百件にのぼりました。
フォーラムでは、まず基調講演として、金融庁監督局参事官の小野尚氏が登壇。「金融監督行政の諸課題とその方向性」と題して、中小企業金融・地域金融を中心に、最近の金融行政の動向と課題について解説。その後、セミナー会場A・B・C・Dにおいて、Legal、Marketing、Risk Management、Regulation & Governanceの4テーマについて、24のセッションが行われた。
金融庁による基調講演
金融庁 監督局 参事官 小野 尚 氏
「金融監督行政の諸課題とその方向性」と題して金融庁監督局参事官 小野尚氏が基調講演を行なった。
小野氏は、初めに地域金融の現状について、中小企業向けの貸出残高の前年同月比が昨年7月からプラスに転じ、預金も貸出金も伸びていることをデータで提示。その中で、問題は預貸率が下がっており、実質業務純益から国債等債権関係損益を引いた“コア業務純益”が低下傾向にあることだと指摘した。
次に、今後地域の市場規模が縮小する中で、右肩上がりの経営計画が立てられないという現実を直視すべきだと強調。今こそ地域の成長とリンクするビジネスモデルを創出することが求められており、各金融機関がコンサルタント機能など高いサービスを提供していくことが重要になると述べた。
その後、新たな金融業に向けて、企業向けの金融サービスのローカルな展開や個人向けサービスの方向性を提示。官民「共働」による具体的な取組みについて紹介した。
また、金融モニタリング基本方針(平成25年度)の概要に触れた後、中小・地域金融機関向けの監督方針として、成長可能性を重視した新規融資の取組みの促進、地域密着型金融の深化、中小企業に対する経営改善支援等の観点で重点的に監督することを述べた。
続いて、本年2月より適用されている「経営者保証に関するガイドライン」を概説。それに伴う監督指針の改正のポイントについても説明。地域経済活性化支援機構(REVIC)の機能拡充の背景と目的、REVICの業務の進捗状況や、改正する法律案の概要について説明した。
最後に、小野氏は金融機関への要望として、地域の活性化への取組みや外部の専門機関との連携すること、また、REVICや事例集などツールを活用して、5〜10年後を見据えた、サステナブルなビジネスモデルを創出して欲しいとメッセージした。
金融庁・小野氏による基調講演の模様は、サブ会場でもライブ中継された
リテール向け販売規制の傾向と対策
長島・大野・常松法律事務所 パートナー弁護士 清水 啓子 氏
長島・大野・常松法律事務所 パートナー弁護士 鈴木 謙輔 氏
基調講演に続いて、4つのセミナー会場で各セッションが開かれた。A会場では「リテール向け販売規制の傾向と対策〜高齢顧客への勧誘と適合性の原則を中心に〜」と題して、長島・大野・常松法律事務所 パートナー弁護士 清水啓子氏、パートナー弁護士 鈴木謙輔氏が報告した。
まず、高齢顧客に対する勧誘による販売について、日証協ルールの改正と新設されたガイドラインの内容を確認し、改正の趣旨について解説。高齢顧客販売プロセスを示して、会話内容をモニタリング(録音・記録・保存)する際のポイントを説明した。
次に、適合性と説明義務について説明。適合性が問題となり易い商品と問題となりにくい商品を指摘し、適合性・説明義務違反が問題となった例を報告した。
金融庁の平成22年金融商品取引業者等向け監督指針を確認した後、毎月分配型ファンドの販売に関わる裁判例を報告。店頭デリバティブ取引などの複雑な商品に関するルール改正について説明した。
最後に平成25年度金融商品取引業者等向けの監督方針を説明し、投資商品の販売後の丁寧なフォローアップの重要性を指摘した。
会社法改正後の企業集団運営上の留意点
長島・大野・常松法律事務所 パートナー弁護士 黒田 裕 氏
A会場では続いて、「会社法改正後の企業集団運営上の留意点」と題して、長島・大野・常松法律事務所 パートナー弁護士 黒田裕氏が報告した。
黒田氏は、まず会社法改正法案における企業集団法制の概要を説明。多重代表訴訟とはどういうものか、株主代表訴訟と比較しながら説明した。次に、完全親子会社間に限っていることについて説明。多重代表訴訟で追求できる「特定責任」と、特定責任の判定の例外や濫訴の防止、特定責任の免除について説明した。
次に、旧株主による責任追及に関する制度の概要に触れ、株式交換・株式移転、三角合併について説明した。続いて、旧株主による責任追及と株主代表訴訟の制度比較を行い、適格旧株主と対象会社の役員の責任免除について解説した。
さらに、親会社による子会社の株式等の譲渡に関する制度について解説。最後に、企業集団の業務の適性を確保するための事項として、改正の概要やその背景を説明。日本監査役協会ケース・スタディ委員会の提言と、企業集団における内部統制システムの強化の重要性を述べた。
債権法改正の最新動向と金融実務に与える影響
西村あさひ法律事務所 弁護士 有吉 尚哉 氏
続いて、「債権法改正の最新動向と金融実務に与える影響」と題して、西村あさひ法律事務所 弁護士 有吉尚哉氏が報告した。
有吉氏は、明治29年の制定以来、初めて抜本的に見直される債権法改正の全体像とスケジュールについて説明した後、債権法改正の全体像を示し、金融業務に関わる主な見直しの内容を取り上げて解説。保証、債権譲渡、消滅時効、法定利率、事情変更の法理、定型条項(約款)、賃貸借など、金融機関の実務に影響を与える重要項目について見直しのポイントを説明した。
次に、中間試案後に撤回された主な提案について触れ、最後に法改正前後に留意すべき点として、改正前の法律と改正後の法律の適用関係が不明確になることや、経過措置も重要であること、民法以外の法律も変動することを挙げた。
アジアにおける金融取引と法規制
アンダーソン・毛利・友常法律事務所 パートナー弁護士 花水 康 氏
続いて、「アジアにおける金融取引と法規制〜クロスボーダー取引における法規制を中心に〜」と題して、アンダーソン・毛利・友常法律事務所 パートナー弁護士 花水康氏が報告した。
花水氏は、まず貸付等に適用される各種規制を紹介。ミャンマーのミャンマー金融機関法、Offshore Loanの例外、実務上の対応を説明し、次にインドネシア、ベトナム、タイの規制についてそれぞれ解説した。
次に、担保権の設定について説明。担保権の準拠法、Common LawとCivil Lawについて説明した後、インドネシア、ミャンマー、ベトナム、タイにおける担保権の設定について、対象資産や設定方法を解説した。
最後に、債権譲渡の準拠法と、インドネシア、ベトナム、タイの債権譲渡について実務上どのようなことに留意すべきか、日本と比較しながら解説した。
改正監督指針等を踏まえた反社対応に係る態勢整備の留意点
弁護士法人中央総合法律事務所 パートナー弁護士 國吉 雅男 氏
続いて、「改正監督指針等を踏まえた反社対応に係る態勢整備の留意点」と題して、弁護士法人中央総合法律事務所 パートナー弁護士 國吉雅男氏が報告した。
國吉氏は、昨年末まで金融庁監督局総務課に在籍して反社対応の監督を担当しており、その経験を踏まえて、金融庁が昨年12月26日に公表した「反社会的勢力との関係遮断に向けた取組の推進について」と改正監督指針の内容に沿って報告した。
まず、反社との取引の未然防止(入口)について、暴力団排除条項の導入の徹底、反社データベースの充実・強化、銀行界と警察業データベースとの接続の検討加速化、定型ローンにおける入口段階の反社チェック強化の必要性を述べた。
次に、事後チェックと内部管理(中間管理)について、事後的な反社チェック態勢の強化、反社との関係遮断に係る内部管理態勢について説明。反社対応部署、営業店等の各部署における内部管理態勢の構築の重要性を説明した。
最後に、反社との取引解消(出口)について、関係解消に向けた具体的な対応方針の策定、見直しと、預金保険機構やRCCの活用促進について解説した。
金融機関における反社排除の最前線
岩田合同法律事務所 パートナー弁護士 本村 健 氏
岩田合同法律事務所 パートナー弁護士 鈴木 正人 氏
A会場の最後のセッションでは、「金融機関における反社排除の最前線〜実例を踏まえて〜」と題して、岩田合同法律事務所 パートナー弁護士 本村健氏、パートナー弁護士 鈴木正人氏が報告した。
まず「理論編」として金融庁の公表資料に沿った対応の概要と、監督指針、検査マニュアルの改正、行政処分リスクと暴排条例の内容などを説明。
次に「実践編」として、各種金融取引における解消(出口段階)における留意点を説明。預金取引、為替・決済取引、融資取引、貸金庫取引、証券取引、保険取引、リース取引、信販・カード取引などにおけるベタープラクティスを紹介した。
さらに、反社データベース構築・管理(中間段階)の留意点として、反社データベースの共有と、滞留反社問題への対応方法を説明。暴排条項、表明・確約書の導入(入口段階)における留意点を説明した。
最後に、反社(ブラック、グレー、密接交際者)認定の留意点と訴訟リスクのヘッジ方法についても解説。金融機関は常に利用される立場にあり、疑念があれば放置せずに報告・相談し、適切に処理することが暴力団排除につながると述べた。
デジタル時代のリテール銀行のチャレンジ
アクセンチュア株式会社 戦略コンサルティング本部 マネジング・ディレクター 森 健太郎 氏
基調講演に続いて、B会場でもMarketingに関する6つのセッションが開かれた。
まず「デジタル時代のリテール銀行のチャレンジ-Next Generation Banking」と題して、アクセンチュア株式会社 戦略コンサルティング本部 マネジング・ディレクター 森健太郎 氏により報告が行われた。
森氏は、まず、銀行経営を取り巻く環境は、まさに潮目が変わる時期であり、金融リテールビジネスの舵取りをより困難なものにしており、勝ち残りに向けた戦略展開の契機とできるか否かが重要だと述べた。
次に、ソーシャル、モビリティ、アナリティクス、クラウドという4つのテクノロジートレンドが消費者の社会生活を変革していると説明。リテール銀行がシェアを獲得するには「顧客理解力」「商品提供力」「顧客リーチ力」の3つを高度化する必要があると述べた。
続いて、(1)顧客情報の統合と利活用、(2)顧客セグメンテーションの高度化、(3)商品のバンドル化・テーラーメイド化、(4)顧客志向型の商品開発プロセス構築、(5)他業態・異業種連携の強化、(6)クロスセル加速に向けた顧客接点の強化、(7)デジタル化時代の店舗ネットワーク構築、(8)ロケーションフリーアクセスの実現という、リテール銀行が取り組むべき8つのチャレンジについて、具体的な事例を交えて説明した。
金融サービスにおけるオムニチャネルのあり方
株式会社ローランド・ベルガー 取締役 シニア パートナー 米田 寿治 氏
この後、「金融サービスにおけるオムニチャネルのあり方〜海外・他業態先進事例に学ぶ顧客経験価値の高め方〜」と題して、株式会社ローランド・ベルガー 取締役 シニア パートナー 米田寿治氏による報告が行われた。
米田氏は、まず、「なぜ今、オムニチャネルか」として、近年の社会構造・消費者の変化、技術の進化とチャネルの変化、金融機関の変化について説明。消費者の価値観の多様化へのソリューションとして、オムニチャネルへの期待があると述べた。
次に、オムニチャネルの戦略上の意味について解説。より魅力ある商品・サービスの進化、新しいカスタマーの発見と呼び込み、最適化された顧客経験価値の提供、既存カスタマーの維持と深耕が可能になると述べ、海外先進事例に見るオムニチャネルのポイントを解説。
最後に、金融機関がオムニチャネル化を成功させるには、戦略目標を定め、その実現の手段としてオムニチャネルを位置づけること、消費者のニーズを起点に、顧客目線で一元化したサービス提供を実現させること、店舗・営業スタッフといったリアルチャネルの強みを活用すべきだと述べた。
「クラウド・ファースト」で実現する金融リテール成長戦略:海外最新動向とデモを交えて
株式会社セールスフォース・ドットコム
常務執行役員 グローバルエンタープライズ営業本部長 森田 青志 氏
執行役員 コンサルティングサービス部長 高橋 甲 氏
続いて、「『クラウド・ファースト』で実現する金融リテール成長戦略:海外最新動向とデモを交えて」と題して、株式会社セールスフォース・ドットコム 常務執行役員 グローバルエンタープライズ営業本部長 森田青志氏、執行役員 コンサルティングサービス部長 高橋甲氏が報告した。
最初に、森田氏が、セールスフォース・ドットコムの紹介と、金融機関におけるクラウド活用の動向と導入事例を紹介。次に、高橋氏が、エンゲージメント・バンキングを実現するリード&リファーラル管理の高度化について説明した。
高橋氏は、「リード」と「リファーラル」とは何かを説明。日本のお客様のリテール金融機関に対する要望や変化をデータで示し、現状のリード、リファーラルにおける機会損失の例を紹介。
改善は容易ではないとした上で、リード&リファーラル情報の効率的な管理について説明。それを可能にする同社のソリューションと投資効果、お客様と銀行員と銀行のWin-Winの関係が作れることをアピール。デモンストレーションも行った。
リテール決済の高度化と金融機関への影響
株式会社NTTデータ経営研究所 金融コンサルティング本部 シニアマネージャー 小出 俊行 氏
この後、「リテール決済の高度化と金融機関への影響」と題して、株式会社NTTデータ経営研究所 金融コンサルティング本部 シニアマネージャー 小出俊行氏が報告した。
小出氏は、まずリテール決済手段の動向について報告。(1)国際ブランドによる新サービス提供、(2)新しい決済端末の出現、(3)新興決済サービスの提供者(Paypal)の出現、(4)ウォレット型決済サービスの出現、(5)海外金融機関における新規決済サービスの出現、(6)NFCを利用した非接触サービスの出現、(7)リテール決済情報のマーケティングへの活用という7つの変化について事例を交えて紹介した。
次に、リテール決済情報の活用は、金融機関の預金業務と融資業務に大きな影響を与える可能性があると指摘。金融機関に求められる取組みとして、顧客ニーズに合わせた金融商品の提案が求められると述べ、融資業務のフローと統合データの活用イメージと国内や海外の融資業務の事例、預金業務のフローと統合データの活用イメージと海外の事例を紹介。
最後に、リテール決済情報活用に向けた課題を述べた。
現場で主導するマーケティング
株式会社ジェネックスパートナーズ シニア・パートナー 安田 雄彦 氏
続いて、「現場で主導するマーケティング〜営業拠点が自ら顧客視点で考え、行動するために〜」と題して、株式会社ジェネックスパートナーズ シニア・パートナー 安田雄彦氏が報告した。
安田氏は、まず金融市場と営業拠点の現状を分析した後、顧客の多種多様なニーズに対応していくためには、営業拠点において自発的に考えて行動し、検証するように仕向けることがポイントとなると述べ、現場主導のマーケティングの必要性と意義について説明した。
次に、マーケティング手法を活用した。営業拠点での組織的かつ自発的に営業生産性を高める仕組みを構築する際の考え方を、PDCAのフレームワークを用いて解説。
(1)計画…現場主導で顧客情報を活かし考えるための仕組み、(2)実行…顧客の「体験価値⇒感動⇒ロイヤリティ」を創出するための提案、(3)検証…現場での提案活動を顧客視点で検証する手法の導入、(4)改善…現場が自ら改善点に気づき、自発的な改善を図るための仕組みについて、詳しく説明した。
米国発:未来型の金融チャネル戦略
グローバルリサーチ研究所 代表 青木 武 氏
B会場最後のセッションは、「米国発:未来型の金融チャネル戦略」と題して、グローバルリサーチ研究所 代表 青木武氏が報告した。
青木氏は、まず顧客と金融機関が婚約するほど仲良しになる「エンゲージメント・バンキング」が注目されていると述べ、それを支えるのがオムニチャネル戦略であり、モバイル、ソーシャルメディア戦略であると説明。
次に、エンゲージメント・バンキング等により、銀行の顧客満足度は実際に上昇しているとして、米国のモバイルバンキングを紹介。24時間警告サービスや支出占い、バーチャルウォレットなどのサービスについて説明した。
続いて、米国のネットバンキングの先進事例を紹介。オムニチャネル時代の店舗の課題を指摘し、新型小型店舗や相談店舗、テラーレス店舗、カスタマイズ化されたATMなどについて説明した。
最後に、金融機関におけるオムニチャネル戦略として、ネットに流れすぎた優良顧客を店舗に呼び戻すための、オンラインでの店舗アポ取りを紹介した。
事務効率化・収益強化のための手法
TIBCO Software Inc. ソリューション・コンサルタント ディフェイ・ルー 氏
基調講演に続いて、C会場では、Risk Managementに関する6つのセッションが行われた。
まず、「事務効率化・収益強化のための手法〜海外金融機関の事例紹介とTIBCO Spotfire〜」と題して、TIBCO Software Inc. ソリューション・コンサルタント ディフェイ・ルー氏が報告した。
ルー氏は、金融機関で新商品の設計や資産運用のために必要な分析を、十分な手順を経てタイムリーに行える同社のTIBCO Spotfireを紹介。
TIBCO Spotfireの差別化要因として、データを見える化してインタラクティブに分析できること、全データのマッシュアップと自由な探索を可能にし、重要な経営指標をモニタリングが可能といった特徴を挙げた。また、セルフサービス的な発見ができ、予測分析やイベント駆動型分析、データ共有とコラボレーションができること、未知なインサイトの発見に役立つことを説明。
続いて、海外金融機関の導入事例を紹介。グローバルに事業を展開する米国銀行や、世界的な保険グループの目的や効果を説明。事務効率化、収益強化の為の手法を紹介し、デモンストレーションも行った。
BCP対策と業務効率化の両立のための対応策
日本アイ・ビー・エム株式会社 ソフトウェア事業 ECMソフトウェアサービス担当 マネージャー
伊庭 嘉仁 氏
続いて、日本アイ・ビー・エム株式会社 ソフトウェア事業 ECMソフトウェアサービス担当 マネージャー 伊庭嘉仁氏が「BCP対策と業務効率化の両立のための対応策」と題して報告した。
伊庭氏は、まずBCP対策と業務効率化を両立させるためには、コンテンツを中心とする業務プロセス改革が必要だと述べ、課題は書類中心の業務が多く残っており、コンテンツの管理・活用が十分できていないことにあると説明。大量のコンテンツを効率よくセキュアに管理できるリポジトリが必要であり、BCP対策はリポジトリの分散配置で、また、業務の効率化はコンテンツを活用することで実現を目指せると述べた。
次に、BCP対策と業務効率化の仕組み作りのポイントについて解説。コンテンツを「ケース(業務プロセスに必要なすべての情報の集合)」に集約し、業務案件単位で管理する「ケース管理」が重要であると説明。先進的なケース管理ソリューション(ACM)の特徴を紹介した。
最後に、銀行におけるACMの事例を紹介。ビジネスを変革・成長させつつコストを削減した多国籍銀行や、新しい可視性とパフォーマンス向上を実現した米国の住宅ローン小口融資企業、危機管理における業務可視性と継続性を向上させた欧州の銀行のケースについて説明した。
内部モデルを利用したカウンターパーティクレジットリスクによるリスクアセットの圧縮効果検証
新日鉄住金ソリューションズ株式会社 金融ソリューション事業本部 上田 忠人 氏
この後、「内部モデルを利用したカウンターパーティクレジットリスクによるリスクアセットの圧縮効果検証」と題して、新日鉄住金ソリューションズ株式会社 金融ソリューション事業本部 上田忠人氏が報告した。
上田氏は、カウンターパーティクレジットリスクと、その規制資本リスクアセットの計算方法であるStandardized Approach(2017年より適用予定の新手法)、Current Exposure、Internal Model Method(Expected Positive Exposure、Potential Future Exposure、Expected shortfall)の数値比較による評価を行い、TSSummit(Misys Global Risk機能)、NSPricer(EXCELアドインライブラリ)で、これらを運用するデモを紹介した。
実践的リスクアペタイト
有限責任監査法人トーマツ 金融インダストリーグループ パートナー 桑原 大祐 氏
有限責任監査法人トーマツ 金融インダストリーグループ マネージャー 飯塚 香 氏
続いて、有限責任監査法人トーマツ 金融インダストリーグループ パートナー 桑原大祐 氏、マネージャー 飯塚香氏が「実践的リスクアペタイト〜金融機関に求められる新たなビジネスモデルの構築〜」と題して報告した。
まず、金融危機を背景に国際的に重要視されている、金融機関の新たなガバナンス手法「リスクアペタイトフレームワーク」を紹介。金融機関がリスク許容度・選好度など明確なポリシーに基づき意思判断を行い、経営戦略を社内外へと伝達する新たな経営管理フレームワークであることを説明し、可能となるビジネスモデルの再構築について解説。
次に、リスクアペタイトフレームワークにより、従来は別々に行われていたリスク管理と事業計画を一体化して事業を運営することで、金融機関が成長に向けたビジネスプランを実現できる可能性が高いと述べ、マレーシアとドイツの金融機関の成長戦略の事例を紹介した。
リスクデータガバナンス強化の海外事例、スコープ検討上の留意点
オラクル・フィナンシャルサービス・ソフトウェア ディレクター 工藤 善也 氏
続いて、オラクル・フィナンシャルサービス・ソフトウェア ディレクター 工藤善也氏が「リスクデータガバナンス強化の海外事例、スコープ検討上の留意点〜経営情報システム(MIS)とデータアーキテクチャのベストプラクティスに向けた取り組み〜」と題して報告した。
工藤氏は、まず金融安定理事会(FSB)を中心とした、グローバル規制の流れを説明。リスクデータの集約に関するバーゼル委員会の規制BCBS239と関連するFSBやBCBSの諸原則を概説し、情報活用形システムの実態と課題を説明した。
次に、欧州大手金融機関や米国大手銀行の事例を示して、リスクデータを活かした顧客分析について解説。最後に、リスクデータ関連で評価されているソリューションを紹介。分析家や統計家の雑用の効率化に使える分析基盤や、分析家や統計家が大量データを直接分析できる統計解析基盤について説明した。
ASEAN諸国における担保とその執行について
西村あさひ法律事務所 シンガポール事務所 弁護士 山中 政人 氏
C会場の最後のセッションは、「ASEAN諸国における担保とその執行について」と題して、西村あさひ法律事務所 シンガポール事務所 弁護士 山中政人氏が報告した。
山中氏は、ASEAN諸国への日系企業の進出が増大するのに伴い、日系金融機関による貸付の需要が増加。債権保全のための担保の設定が重要なキーポイントとなっていると指摘。ASEAN諸国では、担保の設定、対抗要件、執行など、担保制度は国によって異なり、日本法にない概念も見受けられることを説明。
その上で、シンガポール、マレーシア、インドネシア、タイ、ベトナム、ミャンマーを中心に各国の担保制度の概要や、日本企業がこれを執行する場合の問題点を解説。また、海外の投資家などによる日本の不動産の取得が最近増えていることから、外国人による海外不動産の取得にまつわる問題点も説明した。
金融規制改革とその活用
新日本有限責任監査法人 金融アドバイザリー部 エグゼクティブディレクター 小石原 英勝 氏
新日本有限責任監査法人 金融アドバイザリー部 プリンシパル 和合谷 與志雄 氏
基調講演の後、D会場では、Regulation & Governanceについて6つのセッションが行われた。
最初に、「金融規制改革とその活用」と題して、新日本有限責任監査法人 金融アドバイザリー部 エグゼクティブディレクター 小石原英勝氏、プリンシパル 和合谷與志雄氏が報告した。
まずは、金融危機後の世界的な金融規制改革の動向について説明。バーゼルVによる自己資本の質の強化、レバレッジ比率規制の導入、定量的な流動性規制(最低基準)の導入などについて解説。
米国のドット・フランク法やイギリスの銀行規制改革法、EUのリカーネン委員会報告などに触れた後、日本における規制改革の動向として、バーゼルVをふまえた対応、金融機関の秩序ある処理の枠組みなどについて述べ、今後の課題を示した。
次に、金融規制改革の経営への活用として、(1)リスクアペタイト、(2)資本計画とストレステスト、(3)リスクデータと集計について詳しく解説。リスクアペタイトの構築アプローチ例や戦略的なリスク管理をどうするか、また、リスクデータについてどんな分野で今後も多額の投資が求まれるかを説明した。
データガバナンスとCDO(チーフデータオフィサー)の役割
有限責任監査法人トーマツ 金融インダストリーグループ シニアマネジャー 服部 邦洋 氏
有限責任監査法人トーマツ 金融インダストリーグループ マネジャー 重本 武史 氏
続いて、「データガバナンスとCDO(チーフデータオフィサー)の役割〜全社的データ戦略で変わる海外銀行と邦銀への示唆〜」と題して、有限責任監査法人トーマツ 金融インダストリーグループ シニアマネジャー 服部邦洋氏、マネジャー 重本武史氏が報告した。
まずは、服部氏が、金融機関においてデータを効率的・効果的にマネージするリーダーシップが求められていると述べ、データガバナンスの構築にバーゼル諸原則が指針になることや、トレーサビリティ確保の重要性を説明。
そのために、CDO(チーフデータオフィサー)やDMO(データマネジメントオフィス)が必要であり、それぞれどのような機能を果たしているかを解説。データガバナンスに取り組む欧米の金融機関の事例を紹介し、専門部署に求められる業務内容や人材のスキルについて説明した。
次に、重本氏が、欧米の大手金融機関で活用されている、データガバナンス業務支援ツールを紹介。デロイトが独自に開発したPROACTが、規制とデータ管理を即座に分析し、理解を深めるために役立つとして、データ統制の妥当性評価を示した。その後、デモンストレーションを実施。最後に、日本の金融機関におけるデータガバナンス推進について、どんな考え方が重要か説明した。
金融機関のレポーティング・ガバナンスとは?
日本アイ・ビー・エム株式会社 ビジネス・アナリティクス事業部
Performance Management SWAT 田中 保夫 氏
有限責任監査法人トーマツ 金融インダストリーグループ パートナー 平木 達也 氏
この後、日本アイ・ビー・エム株式会社 ビジネス・アナリティクス事業部 Performance Management SWAT 田中保夫氏、有限責任監査法人トーマツ 金融インダストリーグループ パートナー 平木達也氏が、「金融機関のレポーティング・ガバナンスとは?〜レギュレーションレポート管理の新たなアプローチ〜」と題して報告した。
まず平木氏が、レポーティング・ガバナンスの必要性を説明。デロイトが考えるレポーティング・ガバナンスとは、レポーティングプロセスを一元的に管理し、IT化を進めることでレポートの正確性、トレーサビリティーを確保することであると述べた。
次に、レギュレーションレポートの現状について、ほぼ同じ内容を異なるフォーマットで報告する必要があると指摘。A銀行のリスク・レポートを紹介し、同行の「資本管理」「統合的リスク」「貸借対照表管理」の開示例について説明し、レポーティングを省力化することで報告書作成の負担を軽減し、人材をより戦略的な領域で活用できるとした。
最後に、田中氏が、IBM Cognos Disclosure Managementを使用したレギュレーションレレポート管理の活用事例を紹介。その概要とバーゼルVによる活用事例について説明し、デモンストレーションを行った。
部監査高度化に向けての着眼点
新日本有限責任監査法人 金融アドバイザリー部 シニアマネージャー 松野 章太 氏
新日本有限責任監査法人 金融アドバイザリー部 マネージャー 大木 浩 氏
続いて、「内部監査高度化に向けての着眼点〜国内外における当局の期待の高まりを受けて〜」と題して、新日本有限責任監査法人 金融アドバイザリー部 シニアマネジャー 松野章太氏、マネジャー 大木浩氏が報告した。
はじめに、内部監査を取り巻くグローバルな環境について説明。最近のガイダンスは、すべて金融機関の内部監査の有効性を改善する目的を有していると述べた。次に、昨年、相次いで公表された米国FRBと英国CIIAによる内部監査ガイダンスの内容を概説。
続いて、内部監査高度化に向けた着眼点について解説。リスクアセスメイントのあるべき姿について述べ、戦略的リスク・戦略目標に関する監査を重視する潮流やそのポイント、品質評価項目の事例を紹介した。最後に、今後金融機関において、内部監査部門の重要性がますます高まっていくことを強調した。
ネット支店・新型決済・タブレット
株式会社NTTデータ経営研究所 マネージャー 堤 大輔 氏
岩田合同法律事務所 弁護士 鈴木 正人 氏
岩田合同法律事務所 弁護士 政本 裕哉 氏
岩田合同法律事務所 弁護士 大櫛 健一 氏
続いて、「ネット支店・新型決済・タブレット〜トレンドと法務留意点〜」と題して、株式会社NTTデータ経営研究所 マネージャー 堤大輔氏、岩田合同法律事務所 弁護士 鈴木正人氏、弁護士 政本裕哉氏、弁護士 大櫛健一氏が報告した。
最初に、リテール強化に際して、金融機関ネット支店の展開に関する勘所を説明。ネット支店の定義やターゲット別に見たネット支店の期待効果、金融機関における4つの戦略と特徴について報告。ネット支店を検討する際に必要な法務留意点について説明した。
次に、顧客との接触を促進する新たな決済手段のトレンドを紹介。ウォレット型決済サービスの「Google Wallet」「Lemon Wallet」の特徴や、スマートフォン機能を利用した「CardCaseによる顔ペイ」、スマートフォンを活用した支払い、E-mailアドレスやモバイル情報を利用した送金サービス、「Facebookバンキング」などのSNS決済についてそれらの特徴を説明。
こうした新たな決済手段に関する法務留意点について説明した。
最後に、タブレット端末がもたらすセールス進化について解説。そのトレンドとして顧客との情報連携にタブレットを活用している事例や、窓口伝票を廃止している銀行の事例を紹介。法務的な観点で留意すべき内容について説明した。
金融機関の不正対策におけるR&D機能強化とテクノロジーの活用
プライスウォーターハウスクーパース株式会社 金融サービス事業部 マネージャ 古瀬 泰介 氏
D会場の最後のセッションでは、プライスウォーターハウスクーパース株式会社 金融サービス事業部 マネージャ 古瀬泰介氏が、「金融機関の不正対策におけるR&D機能強化とテクノロジーの活用」と題して報告した。
古瀬氏は、はじめに、不正や犯罪から組織を守るためには、変化し続ける相手の状態に対応できる武器を持ち、武器を使いこなすノウハウと武器や弾薬を継続的に供給する兵站が重要であること、そして、様々な制約がある中で周到な戦略が必要だと述べた。
次に、AML・反社・金融犯罪をめぐる4つのトピックス――、(1)規制対応のグローバル化と各国規制の強化、(2)KYCの強化の養成、(3)不正・犯罪のボータレス化、(4)テクノロジー高度化の負の側面の顕在化を紹介。本質的な課題として、よりトップダウン的な施策の重要性が増しており、その一つがR&D機能強化であることを説明した。
さらに、R&D機能には、不正・犯罪対策に関するPDCAの有効性を維持し、継続的に高度化するための諸施策の検討が期待されるとして、IT高度化の動向を報告。R&D機能を高度化するためのポイントや進め方について解説した。
すべてのセッションが終了した後、懇親会を開催。多くの参加者で会場が埋め尽くされ、講演者や参加者同士で活発に意見交換する姿が見られた。なお、金融フォーラムの次回開催は2015年5月22日(金)に予定されている。